チームパフォーマンスに影響を与える心理要因/チームパフォーマンスを高める組織強化の方法論vol.03
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業種
病院・診療所・歯科
介護福祉施設
企業経営
- 種別 レポート
チームパフォーマンスに影響を与える心理要因
株式会社日本経営 / 取締役 橋本 竜也
本稿は、株式会社ビジネスパブリッシング「月間人事マネジメント7月号」に「チームパフォーマンスを高める組織強化の方法論<3>チームパフォーマンスに影響を与える心理要因(1)」として掲載されたものです。
行動発揮に影響する9つの心理要因
前回は、チームの成果につながる主体的行動として、「顧客貢献行動」「最善行動」「プロセス改善行動」「クリエイティブ行動」「チーム力活用行動」「チーム運営向上行動」「メンバー支援行動」「発信行動」を紹介した。
これらの行動は心理要因の影響を受けて、その発揮度合いに差が出る。「やれ!」と命令したところで、「やりたい!」「やってもいいんだ」と感じられなければ、人は行動しないし、行動したとしても継続しないのである。
あるチームで行動的だった人が、チームを変わったら受け身になってしまうことはよくあるし、その逆もある。これは、チームの雰囲気がメンバーの行動を抑制したり発揮させたりするということである。
チームパフォーマンス(TP)を向上させたいならば、メンバーの心理状態をマネジメントすることである。では、主体的行動を促進する心理要因と、そのマネジメントポイントについて解説していこう。
当社では、前述の主体的行動に影響を与える心理要因を9つのカテゴリに定義しており、因果関係も、統計的に検証済みである。これは相関ではないのでこれらの心理要因が向上すると、主体的行動の発揮も高まる。
9つの心理要因とは、①心理的安全性、②チームへの愛着、③目標共有、④メンバー信頼、⑤チャレンジ精神、⑥仕事のやりがい、⑦プロセス重視、⑧顧客重視、⑨チーム貢献への自信、である。
これらの実感が高まるほど、メンバーは主体的行動を発揮しやすくなる。
心理要因はチームの雰囲気が影響する
ところで、個人の心理要因はチーム全体の雰囲気に影響を受けることも分かっている(上記の心理要因はチームの影響を受ける度合いが強い順に並べてある)。当然に感じられるかもしれないが重要な示唆がある。
●個人面談等の個別アプローチだけでは、個人の心理要因の向上には不十分である。
●リーダーだけでは限界があり、メンバー全員が当事者意識を持って雰囲気作りに取り組む必要がある。
●チームに良い雰囲気があれば、メンバー個人の心理要因も引き上げられる。
メンバーの心理要因を高めようとすると、1人ずつフォローすることを考えるのではないだろうか。
しかし、チームの雰囲気に影響を受けるのだから、個に対するアプローチだけでは不十分である。チーム全体の心理要因の向上を意識したチームマネジメントが必要なのである。
以降に、それぞれの心理要因について、チーム全体の意識を高めるポイントを解説していくが、個人ではなくチームのマネジメントだということを意識して読んでいただきたい。
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心理要因の内容・ポイント(前半①~⑤)
1.心理的安全性
チーム内で自分の意見や考えを偽りなく伝えられると感じる度合い。
これは特に「メンバー支援行動」「チーム運営向上行動」に影響を与える。「発信行動」にも影響があるが、実は発信行動は「チーム貢献への自信」の影響が強い。
よく会議で意見が出にくいために話しやすい雰囲気を作ろうとするが、“自分も役に立てるという自信”がなければ、いくら雰囲気作りをしても自発的な意見は増えない。
心理的安全性を高めるには、まず考え方や価値観は違うという前提をメンバーが共有し、心理的に安全な場の重要性をメンバーが理解し、チームとして取り組むことを確認するのがポイントである。
心理的に安全な場は、リーダーだけでは作れない。チームポリシーや会議ルールなどを合議で作り上げることなども効果的だろう。
2.チームへの愛着
チームやメンバーに対して感じている好意的感情、敬意の度合い。
これは特に「チーム力活用行動」に影響を与える。
チーム力活用行動は、チームの力を仕事に活かすためにメンバーとコミュニケーションを図ることで、チームへの愛着を高めないとコミュニケーション行動も発揮されにくいことを示している。
チームへの愛着を高めるには、メンバーやチームそのものに関心を持ち、よく知ることである。お互いのキャリアや人柄をよく知ることも大事である。
また、チームが顧客や会社、世の中にどのように役に立っているかを自覚する、チームの成り立ちや歴史などを知る、外部からの期待(または評価)を知る、といったこともポイントである。
チームのキャッチフレーズや愛称を作ったりするのも効果的だろう。
3.目標共有
チームの目標とその達成に向けた自分の役割の理解度合い。
これは特に「メンバー支援行動」や「最善行動」に影響を与える。
目標共有を高めるには,チーム目標の目的や意義を共有する、達成したときの達成感や他者への貢献度をイメージするといったことがポイントである。リーダーが何度も目標を伝えているのに、メンバーが理解していないという場合、数値目標だけ伝え、その目的や意義を伝えていないというケースが多い。
目的・意義がある達成基準は「目標」となるが、それがなければ「ノルマ」になってしまう。進捗状況の見える化やメンバー同士でのこまめな確認なども効果的だろう。
4.メンバー信頼
メンバーに対する能力面・心理面の信頼の深さ。
信頼は職務的信頼と心理的信頼で構成され、その両方を意識したい。
仕事においては、人柄だけでは信頼は上がらない。これは特に「プロセス改善行動」に影響を与える。
メンバー信頼を高めるには、人間関係が重要であるが、信頼される側と信頼する側という対立的構図にするべきではない。一般に、上司や先輩は信頼される側、部下や後輩は信頼する側という構図が生まれがちだが、これでは対立の関係であり、本来の信頼関係は生まれにくい。
重要なことは、立場や経験によらず、誰もがメンバーから信頼されるための努力をするという認識である。そのうえで、1人ひとりが他のメンバーの強みに目を向けるようにしたり実績を共有したり、考えや思いを共有する機会を作ったりすることが有用だろう。
5. チャレンジ精神
自分の身に降りかかることや、チャレンジを通じて経験する困難な状況を肯定的(前向き)に捉える度合い。これはチーム向上分野全般、クリエイティブ行動にも影響を与える。
また、チャレンジ精神は、心理要因の「チーム貢献への自信」と「顧客重視」にも影響し、それらの向上を通じて「発信行動」と「プロセス改善行動」の向上にも影響を与えることが検証できている。
チャレンジ精神を高めることは、チーム貢献への自信や顧客重視の向上につながるということだ。
チャレンジ精神を高めるには、「状況を肯定的(前向き)に捉える度合い」という定義に着目してほしい。性格や資質の問題にせず、物事の捉え方や見方を前向きにすることがポイントである。
例えば、「もうこれしかない」と捉えるか、「あとこれだけある」と捉えるかといった違いである。これは物事の捉え方の訓練で身に付けられるので、ポジティブシンキング、エリスのABCDE理論、ロジカルシンキングなどが利用できるし、リーダーやメンバーが前向きに物事を捉えるような習慣を作っていくとよいだろう。
昔からいわれる「ピンチはチャンス」とは、まさにピンチの捉え方を変えるフレームワークの1つであろう。
このレポートの解説者
橋本竜也(はしもと たつや)
株式会社 日本経営 取締役
入社以来、人事コンサルティング部門にて、一貫して病院・企業の人事制度改革に携わる。2006年には調剤薬局に出向し、収益改善と組織改革を実現。コンサルティングにおいては、人事改革、組織改革のほか、赤字病院の経営再建にも従事。2013年1月福岡オフィス長に就任。2017年10月より株式会社日本経営取締役。
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